Interview

ヤノベケンジ
京都で成長し、また京都に戻ってきたアーティストは、代表作の多くを学生時代に芽吹かせている。稀代の誇大妄想狂を育んだ関西という土地と、「芽」の発展形のひとつとして制作・発表された絵本『トらやんの大冒険』について聞いてみた。関西文化圏と関西にゆかりある表現者の魅力を探る、『Realkyoto』インタビューシリーズ第一弾!
取材・文:イマニシ’マリエ
-本年(2007年)、京都造形芸術大学の教授に就任されましたが、ご自身も京都の大学のご出身でしたね。
僕は大阪の生まれ育ちで、子供のころからものを作ることが好きな工作少年でした。ものを作るっていう行為をずっと一生続けていくには、ということで、他の国公立大学も受けたんだけど結果、京都市立芸術大学に行くことになりました。洛西のニュータウンにあって、典型的な京都とは言いがたい場所ですが。

ガメラになりきる、若かりしころのヤノベ氏。
© Yanobe Kenji あのころは、関西の美術の動向はかなり盛り上がっていたんです。藤浩志さんとか、石原友明さんとか。森村(泰昌)さんはそれよりももうちょっと後だけど、他に中原浩大さん、松井紫朗さん、松井智恵さん。当時はまだ大学院生だったり、卒業したばかりの人たちの動きがすごい活発で、関西だけじゃなくてもちろん東京でも発表していて、東京のほうからも関西の動きはとても注目されていた。すごくにぎやかな状況が繰り広げられていて、既存の美術の概念を破壊してエネルギッシュに動いていた感じがありましたね。
-そのころ関西でデビューした作家の多くに、明確で強烈な個性を感じます。

『メガロマニア』展(2003年)の会場風景 国立国際美術館
(旧万博記念公園内) © Yanobe Kenji
photo: Toyonaga Seiji別に東京を避けてるんじゃないけど、僕が関西を拠点に活動する理由のひとつは、東京では情報があまりにも多すぎて、流されてしまいがちになるという懸念があるから。関西のほうが、その情報網の中から一歩引いた目で、自分の立場を見ながら活動できるんじゃないかって、若いころすごく思っていたんです。関西のアーティストがそれぞれ独特な味を持っているのは、まわりに振り回されずに、自分自身のアイデンティティみたいなものを育てていける環境があるからじゃないかな。
あともうひとつは、森村さんもそうだと思うけど、関西はカミングアウトするのが得意な人が多いんじゃないかなと。つまり、自分のアイデンティティを見つけて、自分がどういう者であって、自分の中のものをどうストレートに出せるかというのが作家としての強さだとしたら、関西人は、そのあたりをかっこつけずにオープンに出してしまえる人種なのかもしれないですね。
-大学時代のコミュニティで、影響しあう/されあうこともありましたか。

仮装をするヤノベ氏
© Yanobe Kenji大学のときにはバレーボール部に入ってて、その当時、大学でいちばんエネルギーのある人たちが集まってましたね。藤浩志さんはもう大学を卒業してたにもかかわらず先輩としてよく学校に現れてたし、石橋義正くん、高嶺格くんもバレー部で、さかのぼれば椿昇さんもバレー部(笑)。
そういう意味では、いま考えるとものすごく試されてる場所だったのかもしれないなぁ。作品というより人間を試される場所。まぁ僕はあんまり練習とかしなかったんだけど、宴会とかイベントがあったときに呼ばれる部員やった…。

京都市芸術大学の地下に秘密アトリエを構えていたヤノベ氏
© Yanobe Kenji
「ものを創る」現場の力
-ヤノベさんの作品群を拝見していると、学生時代から一貫した流れができ上がっていたように思えます。

「タンキング・マシーン」
(現・金沢21世紀美術館所蔵)
を制作中のヤノベ氏
© Yanobe Kenji大学では、先輩や先生が現役の作家で、その現場を見たのがいちばん勉強になったと思います。画廊の人やメディア関係の人もいっぱい来たりしていました。教師としてというよりも作家である先生たちが、自分の作品と向かいあうときにどういうことを考えて、どういう作品を作って、それを世の中にどう出していくのかを間近に見ることができたわけで。そういうのがすごくリアルな体験として自分の中に詰まっていくことが面白くて、積極的に手伝いとかをしていましたね。
自分のプロジェクトにいま積極的に学生を巻き込んでいくのも、たぶんそういう経験をしたから。座学とか課題を提出させるのも大切だと思うけど、それよりもはるかに自分の力になるもの、その学生にとって大きな経験になっていく機会を与えることのほうが、すごく大変なことだけど最も重要なんじゃないかなと思って。実は僕自身、自分のプロジェクトを毎回そういうふうに共有していくのは、体力的にも精神力的にもきつくはあるけどね……。
-金沢21世紀美術館でのプロジェクトにも、学生や若いアーティストが大勢参加していましたね。

『子供都市計画』(2004~05年)
金沢21世紀美術館・プロジェクト工房にて
学生たちと共同作業を行うヤノベ氏
© Yanobe Kenji
photo:Toyonaga Seiji「ものを創る」現場を共有するっていうのは、ものすごくエネルギーの要ることだと思います。金沢21世紀美術館での滞在制作は、美術館だけど別棟のプロジェクト工房だったということもあって、ものを創るエネルギーを交換しながら、どんどん人を巻き込んでいくっていうプロセスを踏んだ、ある意味自分にとっても挑戦でした。実際に「ものを創る」現場があったから、たくさんの人が入ることができたし、そういう現場を拠点に僕のやり方だけではなくてたくさんの人々と一緒になってイマジネーションを広げていくというのはすごく魅力的だと思って。
この大学(造形芸術大)にもそういう場所、つまりは発信基地を作って、これからはどんどん広げていこうって、実は水面下で動いて仲間を増やしているところなんですよ。
人生とともに歩む作品
-印象に残る彫刻作品を多数発表されてきましたが、先日絵本を出版されたんですね。

札幌宮の森美術館での絵本出版記念展 会場風景
© Yanobe Kenji photo: Miwa Ohba

絵本『トらやんの大冒険』表紙
発売元|赤々舎
通常版 1,890円 (本体1,800 円 +税)
トらやんカバー特装版 3,990 円 (本体3,800 円 +税)
© Yanobe Kenjiある夜、森の中で主人公であるトらやんが小さな太陽を拾って、それをたくさんの仲間と出会いながら大きな太陽へと育てていく冒険ストーリーなんだけれど、ファンタジーの絵と現実の写真とが交互に出てきて、実際の作品が登場人物となって展開していく作品です。『マンモス・プロジェクト』(2004-05)のことだったり、「ジャイアント・トらやん」(2005)だったり……。だからこの絵本を見ると、物語を先に作ったのか、実際のプロジェクトが先に行われたのか一見わからない。そういう交錯した状態になって、例えば、僕の作品を知らない子供たちが見たときに、「これ、面白い絵本やけど、ほんまに作ってるやん!」みたいな。「こんな嘘みたいなことを実際やってる人がいるんや」って、そういう新たな入口を作るための本でもあるんです。僕の作品を特徴づける、妄想と現実との絡み合いみたいなものがわりとストレートに現してるんじゃないかなと思います。

絵本「トらやんの大冒険」より
© Yanobe Kenji
僕は彫刻作品をただ創ってるわけではなくて、その背景にあるものや自分自身の記憶や体験の蓄積があって、その上に作品が成り立っているという経緯がある。これまでも、原発事故後のチェルノブイリを「アトムスーツ」を着て訪問するプロジェクトや、創作の原点となった大阪万博跡地で『メガロマニア』と自分で謳って展覧会をしたり、表現方法も徐々にサイトスペシフィックなものへと進化させて、場所やタイミングの意味をクリアに重要視して慎重に作品を並べるとか、いわゆる典型的な展覧会形式ではない展示の仕方をやってきました。それはやっぱり僕の作品には物語性というのがすごくあって、作品一つ一つが独立して存在するんじゃなくて、それぞれの作品同士がきちんと繋がっていて、僕の人生と一緒に歩んでいくものであると思うから。常に次なる表現の可能性を模索していて、それが今度は絵本というメディアを使って、新しい扉を開くことができたのではないかと思っています。
-絵本からは、また新しいものが始まってゆく予感も十分感じることができました。ところで、以前は黒いスーツにサングラスで少しダークな印象でしたが、なんと言うか最近は、とても「いい人」といった流れに……。

トらやんを操るヤノベ氏の父親が登場した
「森の映画館」(2004年)の内部
© Yanobe Kenji
photo: Toyonaga Seijiあかんな! ほんまは悪い人やのにな!(笑)まあズルイと言うか、笑わせといて、後悔させて、泣かせる。笑わせといて、面白いなぁと思ってたら、だんだん笑ってたらあかんのちゃうかって思えてきて……。感情を揺さぶるというか、まあ、そういうことを自分言ってるだけでうさん臭い悪い奴やな。
『トらやん』という腹話術人形をツールとして使うのも、自分のことを自分で言うのは恥ずかしいからみたいな理由もあるけど、いまという時代に一体何が本当に必要なのかを考えたとき、「トらやん」は僕の中にあるポジティブな未来へのビジョンを次の世代へと伝えたり、たくさんの人々に届けてくれたり、何よりもものを創るエネルギーをくれるものすごい存在なんです。『トらやん』は僕のオヤジが操ってるねんけど、そのオヤジの背中に僕が手を突っ込んで、その僕もいまは『トらやん』に操られているのかもしれない(笑)。
やのべ・けんじ
現代美術作家
1965年大阪府生まれ。現代社会におけるサヴァイヴァル、近年ではリヴァイヴァルをテーマに大型の機械彫刻作品を数多く制作。代表的な展覧会に『メガロマニア』(2003年 国立国際美術館)、公開滞在制作『子供都市計画』(2004年~2005年 金沢21世紀美術館)、『キンダガルテン』(2005年豊田市美術館)、『トらやんの世界』(2007年鹿児島県霧島アートの森)がある。絵本出版記念として開催する『トらやんの大冒険―ファンタスマゴリア―』(2007年12月7日~2008年1月19日、アートコートギャラリー/大阪)では、新作も発表予定。現在大阪府在住。京都造形芸術大学情報デザイン学科教授。
YANOBE KENJI ARTWORKS [ http://www.yanobe.com ]

国立国際美術館跡地でのヤノベ氏。(2005年)
© Yanobe Kenji photo:Toyonaga Seiji