Interview

日々の制約や社会のルールを一度壊して
赤子のような状態に戻るために
アートがあるのだと思います。

高木正勝

液晶画面の中で、きらめく美しい絵画。エレクトロニカとクラッシックの融合。映像と音楽をともに
手掛け、世界的な注目を浴びる新鋭アーティストにインタビュー。

インタビュー:高橋洋介
ポートレイト:藤井由依
協力:PRINZ

作風の新たな展開

――京都芸術センターと京都会館で発表された「NIHITI(ニヒチ)」や「Tidal(タイダル)」や「Lava(ラヴァ)」を拝見しました。これまでの作風とはだいぶ違う印象を受けましたが、どのようなきっかけで制作されたのですか。

「Tidal」は委託された仕事から生まれました。オーストラリアで行われたaudiの新車発表パーティのために作りましたが、自由に作っていいし権利もこちらのままでという有り難い仕事で、時間も沢山ありました。せっかくなので、今までできなかったことをやろうと思い、映像の1コマ1コマを3ヶ月近くかけて描きました。すべてのコマを描いたわけではなく、何コマかを選んで描き、その間はコンピューターで合成しています。「Tidal」ではタイトル通り、月の重力で潮が満ち引きするような感覚の映像を作ってみたかった。次の「Lava」は、仏像の前にいるときみたいに、しかるべき気持ちへすっと入れる映像に仕上げたかった。見た事はないですが、ナム・ジュン・パイクの「TVブッタ」へのオマージュのような作品です。 チベットの読経を自分なりに演奏した曲を映像に付けました。


'Lava' Takagi Masakatsu , 2008
――仏教といえば、最新テクノロジーを使ってシャーマニスティックなことをやられていますよね。

それこそ洞窟壁画の時代から、アートってそういうものじゃないですか。洞窟壁画を実際に模写した印象では、あれは動物の姿を美しく描こうとか大群の動きを緻密に描こうというより、描いている人も見ている人もトランスさせることを目的にしている気がします。壁画が描かれた洞窟は入口が狭く奥は広い。音が鳴り響く構造になっていて女性の子宮をイメージさせる場所です。生まれたての自分に戻れるような場所を自然に選んでいたのかもしれません。人間が集まれば社会が出来ますし、古代の人も現代人と求めているものは変わらなかったと思います。日々の制約や社会のルールを一度壊して赤子のような状態に戻るためにアートがあるのだと思います。


'Tidal' Takagi Masakatsu , 2007

――美術史をかなり勉強されていますよね。

「Tidal」では「オフィーリア」を描いたミレーの続きをやっていると思って作りました。「オフィーリア」は湖で溺れて水死体になる直前の、生と死の境目を描いているから美しいのだと思います。生と死で言うなら、ぼくがこれまで作ってきた映像は、生のほうに引っ張られるものが多かったと思いますが、「Tidal」では、死のほうに、例えば、死体とか人形とかそういうものに引っ張られています。これまでも何かと何かの境目を描いてきたつもりでしたが、集大成を手がけるつもりで極端にその境目のいちばん際を狙ったら、今までずっと越えられなかったところをポーンと飛び越えられた。

アートの根幹に立ち還って

10年くらい制作してくると、誰かの続きをやらされている気分になるときがあります。大昔から「人」が芸術としてやってきたことの大きな流れというものを意識した時に、寿命や技術の限界などで完成半ばのもの、自分が続きをやれそうな隙間が見付かる時があります。最近は、見付けた隙間を自分が埋めていく感覚で作品を作ることが多くなりました。そういう時は、自分が作りたいという想いよりも、なんというか、「やらされている」気分の方が強い。先祖代々の何々とかと同じで、何かの意志や想いを継いでいる感覚で作業することが多くなりました。

――ひとりの人間の人生は場や時間を越えた意志を受け継いでいる。壮大なお話ですね。

西欧の価値観を中心に、系統立てて説明しやすいものが残っていく傾向がありますが…。もっと垣根を取っ払って、単純に「人間」がやってきたことの総体が知りたい。いろんな民族がいろんな土地でやってきたことを変にカテゴライズしたくない。全部合わせて一つの流れとして見たときに現れる1本の太いパイプに触れる作品が作りたいし、そういう作品に接したい。

――表面的な技法や形式で分類するのではなく、もっと大きな表現の根幹から歴史を捉えるということでしょうか。

そうです。あまり誰も簡単には言ってくれないけども、アートって単純なことだと思うんです。たとえば、最近、家でピアノを弾いていると鳥が集まってくるのですが。まあ、ただ木の実を食べに来ているだけだと思いますが、音を鳴らすと窓の傍に寄ってきて鳴くんですよ。なんか幸せで。そういうとき、音楽とか絵ってこういうことやったんだと改めて思います。もし口笛を吹いて、鳥がピーチク鳴いて返したら、何かが通じたような気がしますよね。ぼくはその口笛の音がアートやと思うんです。音がなかったら小鳥とは繋がれなかった。木が風になびく動きにあわせて自分の身体を動かしてみたときに、 風や木と自分が結びついて、一体化できる。本来結びつかないもの同士を結びつける、通路のようなものがアートだと思います。そういう事は言葉では分かっていたのですが、この歳になって、ようやく実感として身体に入ってくる様になりました。

――アートは最初、ラテン語で生きる術を意味したそうですね。

でも、芸術とか美術という言葉だと、美しいとか上手く描ける人がいいというほうに引っ張られる。芸や美を追究する学問というイメージが美術や芸術の文字にはあるけども、それだと、大昔から人間が作ってきた様々なものをどう捉えればいいのか分からなくなるし、これからどういうものを作るべきか分からなくなってしまう。日本だと岡本太郎さんだとか、縄文に遡ったり、民俗学研究を丹念にやられていましたけれど、やっぱりそういう根っこに関わる部分が一番大切だと思います。

表現の本質

少し前から日本語の祖語に興味が湧いてきて。日本語だって他の国の言葉がいろんなところから入ってきていますよね。例えば“虹”の語源といわれている「ニヒチ」はポリネシアの言葉で、“いつのまにか大きくかかる”っていう意味です。いろんなものに使えてイメージが“虹”に限定されていない。「ニジ」と言ってしまうより、「ニヒチ」と言ったほうが“虹”には感じられない言霊みたいなパワーが感じられる。全く個人的な感覚ですが…。最近は英語でタイトルを付けるのもやめたくなったし、かといって今の日本語をそのまま使うのも・・・・・・あまりにイメージが付きすぎているというか、意味が限定されてしまうので。もっとイメージが広がる様な、全体を言い表してしまうような言葉が使いたくなりました。


'NIHITI' Takagi Masakatsu, 2008
Commissioned by RIKEN Center for Developmental Biology
――なるほど。だから「NIHITI」や「Tai Rei Tei Rio(タイ・レイ・タイ・リオ)」のように別の言語でタイトルを付けたり、「Homicevalo(ホミチェバロ)」のように新しい造語を作ったりしているんですね。高木さんはプライベートなものを扱うことが多いと思うのですが、政治的な主題を扱うことについてはどうお考えですか。

それぞれ環境も違いますし、善いも悪いも、どの時代のどの国の政治が正しかったなんてなんとでも言える気がします。アートはそういうことにあまり関与できるものではないと思います。作品を通して政治を扇動するよりも、作品に触れた1日だけでも、自分の本来持っている、誠実に生きられる力が湧いてくるものを作ったらいい。


'Tai Rei Tei Rio' Concert, 2008
Photo by Masaaki Mita

'Homicevalo' Takagi Masakatsu, 2008
Commissioned by Institute for Art Anthropology, Tama Art

――道徳的というわけではなく、思想やイデオロギーでは縛ることのできない何かがアートにはある。

そうです。今はアートですら細分化されて枝葉になっていますけど、宗教や科学なんかも根っこの部分では一つだった筈です。その人間の行為の大元に戻っていくと、“生まれてきたからには世界を全身全霊で際限なく味わいたい”という欲望が根っこにある気がする。余す事なく世界をまるごと味わいたい、そういう欲求に忠実になった時、創造する人もいれば、破壊に走る人もいる。だから、力の使い方を間違えたら、アーティストと狂人は紙一重だと思うし。アートにもし本当に役割があるとするなら、制約を壊すこと、に尽きると思いますが、新しい価値を生み出すというよりは、日々作り上げてきた制約を一旦解除して人間が持っている本然を呼び戻す、一年に一度のお祭りの様なものが本質なんだと思います。

たかぎ・まさかつ

映像作家/音楽家

1979 年、京都生まれ。映像と音楽の制作を等価に手掛け、世界的な 注目を集めるアーティスト。CD やDVD のリリース、美術館での展覧会や世界各地でのコンサートなど、分野に限定されない 多様な活動を展開している。オリジナル作品制作だけでなく、デヴィッド・シルヴィアンのワールドツアーへの参加、UA や YUKI のミュージック・ビデオの演出、芸術人類学研究所や理化学研究所との共同制作など、コラボレーションも多数。

公式HP:
http://www.takagimasakatsu.com

最新情報(2009年3月25日現在)

3/14 ~ 5/10 広島市現代美術館でのグループ展に参加
http://www.hcmca.cf.city.hiroshima.jp/web/main/special_exhidition.html
6/17 新譜CD 発売
7月上旬公開『コンサート「Tai Rei Tei Rio」のドキュメンタリー及び最近作「Homicevalo」「NIHITI」を全国映画館にて上映』(ユーロスペース、名古屋シネマテーク、福島フォーラム、他)。

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